まなびのひきだし
2015.06.03
09.文字への関心の育て方
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このコーナーでは、むっちゃん先生(無藤隆教授)が、保育・幼児教育の大事なポイントを分かりやすく解説します。一人でじっくり読むのもよし!研修の素材として、園やクラスのみんなと読むのもよし!様々な形でご活用ください。毎月1回(第1水曜日を予定)お届けします。読まなきゃ、損。差がつきますよ!
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■文字(ひらがな)への関心をどう育てるかは保育として悩ましい問題です。それをムキになって指導すると、早期教育となり、小学校の準備教育を早くから始めることで、保育の良さを台無しにするからです。といって、何も文字について指導しないと、小学校に入ってから学習についていけるか不安です。それに、そもそも文字への関心として保育指針などでも触れているのですから、それをいっさい無視するのも変です。
■一つには子どもの環境に置かれた一種の「もの」として当然ながら、文字が存在するということです。それは例えば、絵本に書かれた文字です。始め、絵本を読み聞かされているだけの子どもが自分でも読み始めます。まだ十分には読めないでいても、文字が並んでいて、それを大人が読んでいるらしいと分かるのです。それは文字への関心の始まりです。また、園には必ず誕生日毎の子どもの名前が並び、戸棚とかにもその名前が書いていることでしょう。自分の名前を読んだり、友達の名前に気づいたりします。同じ例えば「た」の字が入っていると見つけて、喜んだりもするでしょう。
■そういった文字は一つ一つを見れば、絵文字と同じです。マクドナルドのマークを見て「マック」と叫んだり、非常口のマークで「にげるところ」と言ったりするのと同じように、「あ」の字を見て、”あ”と名前を呼ぶのです。かな文字は50音(「しゃ」といった特殊音節を含めても100ちょっとの数です)ですから、その程度の数の絵文字の名前が分かることがかな文字を読むということです。(ただし、漢字は違います。いくらでもあるので、その学習は大人まで続きます。)
日本語のかな文字はアルファベットなどと異なり、初期の学習に有利な特性を備えています(その代わり、小学校高学年以上の漢字の負担が大きいが。)例えば、猫は「ねこ」と書きます。アルファベットなら、”neko"であり、英語では"cat"です。かな文字は「ね」と「こ」と読んで、それを早く言えば「ねこ」という単語になります(特殊音節は「しゅ」は「し」と「ゆ」の発音の単純な合成ではないので、例外です)。英語ではそうはいかず、c-a-tを「しー、えー、てぃー」と発音していくら早く読んでも、「キャット」にはなりません。かな文字は個々が読めれば、そこから単語の読みにほぼつながるので、初期の学習では易しいのです。
ですから、かな文字を一つずつ読むことは、子どもの身の回りに豊富に文字が置かれた素材が環境として置いてあれば、自ずと覚えていきます。今の時代、そういった文字は環境の中に溢れるようにありますから、ほとんどの子どもは5歳くらいになると、ひらがなを一つずつなら読めるようになっています。
ただし、ひらがなを書くのはまったくそれとは異なって、難しいのです。書き順とかバランスとか、ひらがなはとりわけ難しい文字です。アルファベットとは対照的です。ですから、書くのはどうしても教えないと覚えないし、それには手間が掛かります。その上、指先のコントロールが発達して出来ることですから、知的発達自体とは異なり、多くの子どもは年長児の始めないし終わりくらいに出来るようになります。ですから、幼児期に必ずしも必要だとは言い難いでしょう。
■なお、文字一つずつが読めるから文章を読めるようになるわけではありません。そのためには、単語としての把握が必要です。知らない単語は個々の文字が読めても、やはり分からないからです。その意味で、幼児期は特に語彙の習得に勤めるべき時です。特に、単語とその発音とその意味を結合することが必要です。ですから、体験する中で、大人が子どもと対話し、絵本を読み聞かせることが重要な理由です。