まなびのひきだし
2015.01.07
04.保育者が子どもに働きかけること
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このコーナーでは、むっちゃん先生(無藤隆教授)が、保育・幼児教育の大事なポイントを分かりやすく解説します。一人でじっくり読むのもよし!研修の素材として、園やクラスのみんなと読むのもよし!様々な形でご活用ください。毎月1回(第1水曜日を予定)お届けします。読まなきゃ、損。差がつきますよ!
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■保育者が子どもに語りかけることの大切さを強調して、「言葉掛け」と言ったりしますが。それを私は子どもと保育者の「対話」と呼びたいと思います。
特に、言葉の発達に注目して、その様子を考えてみましょう。一つのことを言い表すというのが言葉です。ですから、新たな言葉はそれが何を指すかが分かって、理解されます。
■「ほら、ゾウさんだね」と語りかけて、「ゾウ」という言葉を学ぶ。それは繰り返して音声として「ゾウさん」と言えることを目指すのではなく、絵本や動物園に出てくるあの動物としての象を指すものだと分かって、「ゾウ」という言葉の獲得に意味が出来ます。言葉は意味と音声としての単語をつなぐものだからです。
となると、子どもがその象の絵なり実物に注目して、面白いとか大きいなとか印象深く感じているところに、その言葉が入るから、脳の中で音声として言語と意味としての表象が結びつき、語彙が学習できます。保育者は子どもがどこに注意を向けているかをよく見定め、また必要があれば、注意をそちらに向けるように刺激を出します。絵本ならページをめくり、「ほら」と声を出し、指で指すでしょう。そっぽを向いているのに、言葉を掛けても、その言葉はいわば行きどころがなくて、忘れさられてしまいます。
もっと簡単なのは子どもが先に何かに興味を持って発声したときです。「あ、ゾウさん」と子どもが言って、それを保育者が「そうだね、ゾウさんだね、鼻が大きいねえ」と応じてやる。それは、子どもが鼻の大きさに気づいて驚いたらしいと見極めて、それを言葉にしているのです。子どもが象を巡って考え始めたことを、少しだけ膨らませ、拡張して子どもに返します。そういったやりとりが日々あれば、子どもが保育者に語ることが増えるでしょうし、その応答で子どもの言葉を豊かにする機会が多くなります。
■冬のさなか、保育者が前日あちこちに置いた容器に水を入れたものを持ってこさせて、そこに張った氷を子どもに取り上げるようにしていました。何人かの子どもが氷を手に持って、自分のが大きいとか厚いとか、陽に透かせてきれいだとか、叫んでいます。保育者は、そうだねえ、みんなの氷はどれも素敵だねと応じます。その上で、その氷はすごく厚いね、すごいとほめます。他の子どもも自分のが厚いと言いますが、最初の子どものが一番です。「どうしてなんだろうね、○○ちゃんの氷はどうしてこんなに厚くできたんだろうね」と問いかけます。じゃあ、明日、もっと厚い氷が出来るようにどこに置けば良さそうか考えて置いてみようか、と働きかけます。
その続きはこうです。「やっぱり○○ちゃんの氷が厚いね。どうしてだろう。」と問うと、一人の子どもが「○○ちゃんが置いたところは寒いからじゃない」と気づきます。実は園舎の北側の陽の当たらないところだったのです。そうだったのか、お日様があたっていないものね、お日様はすごいパワーがあるんだね、と子どもたちと保育者の対話は続きます。
■そこでは、保育者の語りかけは単に言葉を増やすことを越えて、子どもの思考力を伸ばすところに向かっています。一緒に一つのことに注意を向け、その注意を持続し、どうしてという問い掛けを行い、その理由を子ども同士また子どもと保育者が一緒になって考えます。保育者は答えを提供する人ではありません。保育者も正答が分からないという顔をしながら、子どもたちの考えを展開させるような手伝いをするのです。
そういったあり方を、「集中した協同的な思考」と呼び、それを促す保育者の働きかけを「思考のための対話」と言うことが出来ます。ぜひそういった機会を増やしてほしいと思います。