まなびのひきだし
2015.11.04
14.表現の広がり
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このコーナーでは、むっちゃん先生(無藤隆教授)が、保育・幼児教育の大事なポイントを分かりやすく解説します。一人でじっくり読むのもよし!研修の素材として、園やクラスのみんなと読むのもよし!様々な形でご活用ください。毎月1回(第1水曜日を予定)お届けします。読まなきゃ、損。差がつきますよ!
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■領域「表現」とは、元々、図画工作(造形)と音楽から成り立っていたものが「表現」としてまとめられたものです。ですが、今は、例えば、身体表現などを含めて、自己表現のすべてを含めています。教科として特定のスキルを教えようとしているのではないからです。
そういう意味では子どものするすべてが表現であるとも言えます。例えば、砂場遊びをしていて、穴を掘り、トンネルを作り、水を入れ、海に見立てたりする。レストランごっこをして、料理を紙で作り、メニューを書き、お客さんにサービスする。それは他の領域例えば人間関係や環境の内容でもありますが、表現の内容でもあるわけです。それが保育内容を総合的にとらえるべきだということでもあります。
■となると、とりわけ「表現」という特徴はどこにあるのでしょうか。子どもが何か感じ、考えている。それと、表現する場とか素材があり、その間の交渉というのか、微妙なやりとりが続くことがかなめなのではないかと思います。それが特にやりやすいのが造形活動と音楽活動なのでしょう。それらは何度も表し、試し、どういう表現かを子ども自身が見たり聞き直したりできるのです。
どう表そうかと途中で考えたり、振り返ったり、見渡したり、先を見通したり、試行錯誤しつつ、作っていくのです。もっとも、小さな子どもですから、その「考え」は頭ですべてやっているというより、もっと感覚的なものです。造形活動など、むしろ手の触感や動きを頼りに、作っていくところも大きいし、たまたまできたものを活かして見立てて、それが広がっていくこともあります。音楽で言えば、声を出して歌うとして、そこに自分たちの声を聞きつつ、調整し、直したり、再度試したり、改めて歌い直したりします。声の高さやリズムを何となく思いつきで変えることもあるでしょう。
そこでは表現を進めながらの微調整が絶えずあるものです。ですから、そういう過程を踏めるように、一つは表現したい気持ちがまずは生まれていることです。激しい雨が降っているのを見て、ぜひその雨の強さを表したいと感じて、絵を描き出す。
■次には、素材があって、それで試せることです。絵筆があり、画用紙がある。紙の箱があり、はさみとセロテープとクレヨンがある。それを組み合わせ、つなぎ、描き、作ります。その一つ一つの行為に手応えがあり、手触りがあり、見た目の変化が起こり、次への思いつきが生まれていきます。あ、そうだ、と思って、急に何かに似て見えて、見立てが起こり、そのものを使ったごっこ遊びに発展するかも知れません。
■そして最後に完成したと子どもが思えるような「作品」が生まれます。「ほら、できたよ」と保育者に満足げに見せたりするのがそれです。大人から見て素晴らしい完成品かどうかではなく、子どもなりによく表せたと感じられるものです。とはいえ、大人ほど子どもはその最終的な作品に思い入れがあるわけではなく、むしろ作っている過程が楽しいのです。そこに思いつきがあり、工夫があり、思いがけない変容が生まれることが表現という活動なのです。
ぜひその表現する様子を大事にして、豊かな素材や道具を用意し、子どもの思いつきをいろいろに試せる場を作って下さい。