まなびのひきだし
2016.01.06
16.保育に筋を通すことと柔軟に対応すること、または保育課程と指導計画について
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このコーナーでは、むっちゃん先生(無藤隆教授)が、保育・幼児教育の大事なポイントを分かりやすく解説します。一人でじっくり読むのもよし!研修の素材として、園やクラスのみんなと読むのもよし!様々な形でご活用ください。毎月1回(第1水曜日を予定)お届けします。読まなきゃ、損。差がつきますよ!
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■保育を進めるにあたって、その時の事情や子どもの様子や遊びの発展に応じて、個別の配慮を心がけることが必要です。臨機応変に対応することが求められます。
ですが、その一方で、保育所保育指針には丁寧に対応の仕方のみならず、年齢段階に応じた特徴が記述されていますし、保育内容は5領域のおのおのについていくつものの項目が挙げられています。さらに、それらを元に、保育課程を作成し、長期および短期の指導計画を作ることになっています。
一見すると、それらは矛盾するような気がします。一方では柔軟なその都度の対応が必要であるとされ、その一方で常に保育課程を参照し、また指導計画に沿った保育が求められるのです。その折り合いはどのようにして可能なのでしょうか。
■保育課程とは保育指針と近いものです。例として、東京都北区の保育園が協同して作った保育課程から一部を紹介しましょう。目指す子ども像や保育の目標は指針によっています。年齢ごとの子どもの様子が出てきますが、これは指針の記載よりかなり詳しくなっており、長期の指導計画につなぎやすくしてあります。
3歳の頃を見てみます
- <子どもの姿・心の育ち>
- ・食事、排泄、衣類の着脱など、自分でできることは自分でしようとする。
- ・運動機能が伸びてきて、走る、跳ぶ、投げる、蹴るなどの基本的な動作ができる。
- ・自我がよりはっきりし、「何でも自分でできる」という意識が強くなり、大人の手助けを拒むことが多くなる。その反面、大人に依存したい気持ちもある。
- ・平行遊びをしながら、興味のある友達の模倣をしたり、遊具を仲立ちとして関わったりする。
- ・気の合う子と少人数で遊ぶ姿も見られる。
- ・自分の思っていることと、相手の思っていることの違いが分からず、けんかになることもあるが一緒にいることを喜ぶ。
- ・保育士の手伝いをしたがり、ほめられたり、認められたりすることを喜ぶ
- ・生命が人だけでなく、他の無生物にもあると思い、空想や想像の世界を楽しむ。
- ・身近な虫や草花を見たり、直接触れたりすることを喜ぶ。
- ・語彙数が急激に増え、生活や遊びに必要な言葉を自分から使おうとする。また、知的興味や関心が高まり、「なぜ」「どうして」などの質問を盛んにする。
- ・日常の経験を取り入れ、再現して遊ぶようになる。また、簡単なストーリーが分かり、登場人物と自分を同化してごっこ遊びをするようになる。
■このように、子どもの発達に基づいた園での姿をとらえます。その上で、それに対して保育者の働きかけについて述べます。それは保育士が直接援助するところと園の環境構成からなります。
- <保育士の援助・環境構成>
- ・基本的生活習慣は、自分でしようとする気持ちを大切にし、できるところは認めたり、できないところは必要に応じて手助けし、できるようになる喜びを味わえるようにする。
- ・全身を動かして遊べるよう、戸外での活動を多く取り入れ、様々な環境を利用する。興味や関心が持てるよう運動用具や遊具を用意し、身体の諸機能の発達を促す。
- ・自我がはっきりしてくるが、自分の思いをうまく言葉や行動に表すことができないところもあるので、その時の状況に応じて、子どもの気持ちをしっかり受け止め、必要な援助をしていく。
- ・平行して遊びながら、友達の遊びを模倣したり、時には関わって遊んだりするよう仲立ちとなる。
- ・子ども同士のぶつかり合いを見守り、双方の思いをくみ取りながら相手の気持ちに気付かせていく。
- ・手伝いをしてくれてありがとうという気持ちを伝えていき、人に喜ばれることや「できた」という満足感を味わえるようにする。
- ・子どもが発見したこと、面白いと思ったことに共感し、一緒に関わりながら想像の世界を広げていく。
- ・草花や木の実を遊びに使ったり、虫や小動物を見たり、触れたりしながら、生命の不思議さ、大切に思う気持ちを育んでいく。
- ・子どもの話をよく聞き、伝えたいことの意味をくみ取り、話したいという気持ちを満たすことができるようにする。
- ・言葉と行動や出来事が結びつくように、保育士は適切な言葉で話したり応えたりし、子どもが場面に合った言葉を話せるようにする。
- ・経験したことを自分なりに表現できるよう、ごっこ遊びに必要な素材や用具を揃え、イメージをふくらませていく。
■その上で、「自分の気持ちを言葉で表現しようとする時期」と特徴づけて、その個別の内容とそこでの対応の留意事項を挙げます。それは、ねらいと内容からできています。
- ねらい
- ○保健的で安全な環境をつくり、快適に生活できるようにする。
- ○自分の気持ちを安心して表し、情緒の安定した生活ができるようにする。
- ○食事、排泄、睡眠、休息、衣類の着脱など、生活に必要な基本的な習慣が次第に身につくようにする。
- ○体を動かして遊ぶことを楽しむ。
- ○身近な大人や友達に関心を持ち模倣して遊んだり、親しみを持って関わろうとする。
- ○身の回りにある様々な色や形、音色や感触、味や香りに気付いたり感じたりする。
- ○保育士や友達の言葉に興味関心を持ち、聞いたり話したりする。
- ○絵本や物語などに親しみ、想像する楽しさを味わう。
- ○感じたことや思ったことを描いたり、歌ったり、体を動かしたりして自分なりに表現しようとする。
- 内容
- ・一人一人の健康状態・発達状態を把握し、異常を感じる場合は適切に対応する。
- ・一人一人の子どもの気持ちを受容し、共感しながら信頼関係を築いていく。
- ・食事、排泄、衣類の着脱、身の回りを清潔にすることなどを、意欲的に行えるように、自分でしようとする気持ちを受け止め、待ったり言葉をかけたりする。
- ・生活や遊びの中で危険な場所や安全な遊び方を知らせる。
- ・戸外で遊ぶことの心地よさを味わい、様々な遊具や用具などを使った運動や遊びを楽しむ。
- ・ひも通しやボタンかけ、布をたたむなど、手や指先を使って遊ぶ。
- ・自己主張し合うことで、友達とけんかになるが、保育士の仲立ちにより徐々に相手の気持ちに気付くようになる。
- ・年上の友達と遊んでもらったり、模倣して遊んだりする。
- ・保育士の関わりや言葉かけにより、順番・交代や黙って人の物を持っていかないなど、生活や遊びに必要なきまりや約束ごとを知り守ろうとする。
- ・身近にある草花や虫、小動物を見たり、触れたりして親しみを持つ。
- ・気温の変化、木の葉の色の移ろい、風の冷たさなどを通して季節により自然が変化することに気付く。
- ・「おはよう」「ありがとう」「おやすみなさい」などのあいさつや、「はい」の返事など、生活や遊びに必要な言葉を使う。
- ・したいこと、してほしいことを言葉に表し、分からないことを質問する。また、保育士や友達と簡単な言葉のやり取りを楽しむ。
- ・絵本の中の登場人物になりきって遊び、自分でイメージしたことを表現して楽しむ。
- ・興味を持ったことを保育士と一緒に言葉にしたりごっこ遊びにして楽しむ。
- ・砂、紙、粘土など様々な素材に触れ、描いたり、作ったりして遊ぶことを楽しむ。
- ・音楽に親しみ、歌を歌うこと、音楽に合わせて体を動かすこと、友達と一緒に踊ることなどを楽しむ。
■ここまで来れば、それを1年間の時間の流れに配置し、その都度の季節に応じた特色のある活動や行事を入れ込むことで、長期の指導計画ができます。指導計画とは、ねらいと内容が書かれており、さらにそれに対しての保育士の援助と環境構成の基本が記載するものです。
■短期の指導計画はそれに基づき、その週や日に応じた具体的な活動を入れ込むのです。そうすると、逆に、その具体的な活動から長期の指導計画で言えば、どのねらいと内容に結びつくのかを見やすくなります。何のための活動かが分かるわけです。活動はその都度の天候や子どもの状態や前日・前週までの子どもの活動の発展に応じて変えてよいものです。そのため、そういったことを考慮して短期の指導計画は少なくとも毎週程度には修正を加えます。その際、長期の指導計画を参照して、そのどことつながるかを検討することにより、活動を適宜入れ替えてもよいわけです。思いつきで何でもよいのではなく、その場やその日・週に応じるのですが、その元の根拠はちゃんと長期の指導計画に見られるようにつないでおくのです。
■長期の指導計画の改善は学期や年単位で考えればよいでしょう。その際に、実際に指導してきてどうだったかと子どもの活動の様子を振り返り、そこでの育ちを見直します。翌年度に向けて指導計画を見直し、必要に応じて保育課程も改訂することになります。