おやこのひきだし
2023.10.20
シリーズ 身体障がいのある子どもたちと保育園生活 第11回(全12回)
執筆:株式会社Halu(乳幼児向けインクルーシブブランド IKOU運営)
対象:保育士、幼稚園教諭、保護者
障がいのあるお子さんが保育園や幼稚園に入園することが決まった時、お友達と一緒の生活でたくさんの経験を積んで成⻑につなげて欲しいという期待や嬉しさの反面、「これまで障がいのある子と関わったことのないお友達が受け入れてくれるのかしら」「他の保護者の皆さんたちは、特別なサポートが必要な我が子に対してどのように感じるのか…」など不安を感じることも少なからずあるのではないでしょうか。実際に園に通い始めてからも、他の保護者の方との交流を深めるには少なからず時間が必要だと思います。そこで今回は、「我が子と同じクラスに身体障がいのあるお子さんがいる保護者」の気持ちについてのインタビューをお伝えしたいと思います。
〈こども園/年少〜年⻑の3年間、息子さんが同じクラスのママ〉
『息子が園に通うようになって、教室の様子を覗いてみるとバギーに乗ったお子さんがおり、そこで初めて障がいのあるお子さんと同じクラスなんだと認識しました。バギーに乗ったままでも、一生懸命に先生とともにお支度をしている様子をみて、自然と応援したい気持ちが込み上げてきました。それと同時に、いろんなことに頑張っているお友達と息子が友達になれたとしたら、息子の世界は広がって楽しいだろうなと直感的に感じました。
程なくして、親御さんと通園されるところにも出くわしたのですが、お声がけをすることに関しては迷いがありました。話しかけられることが嬉しいのかどうか、逆に嫌な気持ちをさせはしないかなど、余計な考えがよぎり、簡単に話しかけることができませんでした。障がいを抱えたお子さんの親御さんには、きっとこれまで積み上げてきたなんらかのストーリーがあるはずで、それを安易に立ち入って崩してはいけないのではと、勝手に思い込んでいたのです。その後、息子たち同士の交流をきっかけにお話しする機会を持つようになりましたが、何も気負うことはなかったのだと気付かされました。
園でともに過ごす息子にも日を追うごとに変化がありました。「今日は◯◯君がくるんだよ。」「◯◯くんはかっこいい歩行器で歩くんだよ。」「お手伝いしてあげたんだよ。」など、園での様子を少しずつ報告してくれることが増えてきたのですが、年少さんだったということもあり、特に「どうして歩けないの?」「なんでずっと椅子に座っているの?」などの疑問を問いかけてくることはありませんでした。
ある日、息子が「〇〇君も優しくしてくれるから、僕も優しくしてあげる」ということを話してくれたのです。小さい頃から園でともに過ごすことによって「体が弱い人だから、障がいがあるから守ってあげなければいけない」ということではなく、「お友達がああしてくれるから、こうしてあげたいんだ」という、障がいの有無は全く関係ない対等な関係性がそこには生まれていたのです。障がいのあるお友達もきっと、園の他のお友達の存在が刺激となり成⻑できていることもあるかもしれませんが、それは息子にとっても同じで、たくさんの学びや刺激を受けながら逞しく・優しさを持って成⻑できているのだと思います。』
今回のインタビューを通じて、複数の保護者の皆さんにお話を聞かせていただきましたが、共通していたのは「子どもたちは先入観なく、ありのままを受け入れて園生活を過ごしていく」ということでした。
DEI (※1)推進の必要性が広く議論されるようになってきましたが、現在の日本社会では、障がいのある子と健常な子の生活や遊び、学びの場が隔たれてしまっているがゆえに、両者が交流する機会がほぼないままに、大人になってしまうケースがほとんどです。
一方で、小さなうちからさまざまなニーズを持つ子どもたちの存在を身近に感じながら共に育ち合うことができれば、自然と「世の中には多様な人たちがいることが当たり前なんだ」という感覚を身につけ、お互いに優しさを交換し合いながら、助け合う気持ちを子どもたちは身につけていく育っていくのだと思います。また、そういった我が子らの経験を通じて、保護者である大人も同様に学びの機会を得ているのだと、そんなことを今回のインタビューを通して改めて感じました。
小学校以降の学校生活では、障がいのある子に合わせた学び方の支援を受けるため、特別支援学校や特別支援学級を選択するというケースも多くあることを考えると、未就学の時期に通う保育園や子ども園、幼稚園は、インクルーシブな環境で子どもたちが共に育ち合える、本当に貴重な機会です。あらゆる人たちが暮らしやすい社会の実現に向けては、「インクルーシブ保育」の推進が大切な鍵となる。そんなことを、今回の保護者のインタビューは教えてくれています。
- ※1)DEI:「Diversity(ダイバーシティ、多様性)」「Equity(エクイティ、公平性)」「Inclusion(インクルージョン、包括性)」の頭文字からなる略称。