保育のひきだし こどもの可能性を引き出すアイデア集保育のひきだし こどもの可能性を引き出すアイデア集

おやこのひきだし

2023.09.07

シリーズ 身体障がいのある子どもたちと保育園生活 第9回(全12回)

執筆:株式会社Halu(乳幼児向けインクルーシブブランド IKOU運営)

対象:保育士、幼稚園教諭、保護者

【第9回 後編】
前編の概要
成⻑に伴って周囲への興味を⽰し始めた医療ケア児である息⼦。健常なお⼦さんとの関わりによるさらなる成⻑に向け、幼稚園⼊園を⽬指すも、園探しは難航しました。
ようやく⾒つかった受け⼊れ可能な園では、⼊園まで幼稚園との意思疎通や情報共有を図り、週3⽇の午前中だけ、⺟が付き添いながらの短い登園時間をできるだけ有意義な時間として過ごせるようと期待に胸を膨らませていましたが、⼊園後には、ともに⼊園準備を進めてきた園⻑が退任し、新年度で担任も変わっていたことで、また⼀から関係を築いていく必要に迫られ…。前編に引き続き、今回の後編では、「なぜ卒園まで通い続けることができなかったのか?」…という背景をご紹介します。


『4⽉から赴任してきた新園⻑と担任の先⽣⽅とも、できるだけコミュニケーションをとりながら、徐々に息⼦単独での登園スタイルへ移⾏していけるように頑張ろう。そう決意を新たにし、⺟⼦通園スタイルでの幼稚園⽣活をスタートさせました。

園⽣活が始まってみると、先⽣⽅にとって新しく赴任してきた慣れない環境での毎⽇は、想像していた以上にあまりにも慌ただしく⼤変そうで、私たち親⼦に特別なサポートをする余裕はない様に⾒受けられました。
しかし、当時の私にとっては「健常なお⼦さんと⼀緒に登園できている」ということ、「幼稚園⼊園」というチャレンジができていることにも満⾜していたので、状況が落ち着くまで焦らず、その時が来るまで待とうという気持ちでした。先⽣⽅が慣れるまでは「出来るだけ迷惑はかけないように、お⼿伝いできることがあればしよう」と、⺟である私が⾃らお友達に声をかけ、息⼦に興味を持ってくれるように働きかけたり、息⼦のケアを⾏なってみたりと、私なりにできることをしていました。先⽣⽅も息⼦を気にかけてはくれているので、新年度の慌ただしさが落ち着けば、私が付き添わなくても、息⼦⼀⼈で登園できるようになっていくだろう、そう思っていました。

そんな毎⽇の中、ゴールデンウィークが終わる頃、担任の先⽣の退職というニュースが⾶び込んできました。今まで以上に、先⽣⽅の余裕がなくなる事態となり、私⾃⾝も積極的に意⾒するタイミングを失ってしまったのです。⺟も⼀緒に通園することが当たり前になり、幼稚園との意思疎通が図れないまま⽇々は過ぎていきました。息⼦に興味を⽰してくれるお友達もいましたが、息⼦⾃⾝もあまり園⽣活に馴染みきれず、笑顔を⾒せてくれることもそう多くはありませんでした。幼稚園と並⾏して、⾃宅から⾞で1時間近くかかる距離の療育園(※1)に通っていること以外にも、リハビリ通院やその他病院受診などもあり、いつしか常に付き添いが求められる状態で通園することを負担に感じる様になっていきました。そして、息⼦が体調を崩し数週間の⼊院をしたことをきっかけとし、幼稚園を退園する決断をしたのでした。

今となって、あの頃を振り返って⾒ると、息⼦に特別な配慮をしてもらうということに対し、「特別扱い」をしてもらっている、あるいははわがままを⾔ってしまっているのではないかと、周囲の⽬を気にし過ぎていたのかもしれません。私が勇気を出して、配慮してほしいことや希望を伝え、もっと相談をしていれば…といった後悔がないかと⾔えば嘘になります。
ただ、私たち親⼦がこのように新しい世界に⾶び込むチャレンジができたことは、決して無駄なことではなく誇りであり、息⼦にとっても忘れることのない貴重な経験として⼼に刻まれていることでしょう。社会の変化とともに、私たち親⼦はこれからもチャレンジすることを諦めないでいたいと思っています。』

昨今は、SDGsへの関⼼の⾼まりと共に、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の重要性が広く認識されるようになってきました。さらに2021年には医療的ケア児⽀援法(※2)が施⾏され、医療的ケア児のための環境整備が努⼒義務から法律上の責務へとなったことで、各施設や⾏政が積極的に動いていくことが期待されています。
しかし、制度や法律が変わってもすぐに社会が変化するわけではなく、医療ケア児を含む障がい児が健常児とともに育ち合う環境が「当たり前のこと」として認識されるには、時間がかかっていくことでしょう。障がい児の特別なサポートはあくまで「合理的な配慮」であって、「特別扱い」ではないという共通意識や、社会全体がそれを許容する雰囲気作りができていたとすれば、今回ご紹介した事例においても、⼈員不⾜という課題はありながらも、双⽅が納得いく形での通園のための環境づくりができたのかもしれません。
「障がいがあっても健常なお⼦さんとともに幼稚園や保育園に通って、⼦どもたちとのふれあいの中で成⻑してほしい」と思っている当事者の家族がその想いを理解してもらえないままに諦めてしまうことがなくなるよう、当事者家族と園の関係者みんなで試⾏錯誤を繰り返しながらインクルーシブな環境づくりに取り組んでいくことで、ともに育っていく⼦どもたちが⾃然と多様な個性を認め受け⼊れ合える、そんな社会に向かっていくことを願います。

注釈

  • ※1)療育園:地域の障害のある児童を通所させて、⽇常⽣活における基本動作の指導、⾃活に必要な知識や技能の付与または集団⽣活への適応のための訓練を⾏う施設。
  • ※2)医療的ケア児⽀援法:正式名称「医療的ケア児とその家族に対する⽀援に関する法律」は、医療的ケア児を法律上で定義し、国や地⽅⾃治体が医療的ケア児の⽀援を⾏なう責務を負うことを⽇本で初めて明⽂化した法律。医療的ケア児の健やかな成⻑を図るとともに、その家族の離職を防⽌する⽬的で作られた。


「保育のひきだし」広報部 Twitter

保育士資格を持つ社員たちが、「保育のひきだし」の
最新情報や関連保育施設での出来事をツブやきます!

採用情報 あなたにぴったりの職場がきっとみつかる!

採用情報 あなたにぴったりの職場がきっとみつかる!

保育園、学童クラブ・児童館、小規模保育施設への就職・転職をお考えの方はこちらをご覧ください。

  • 新卒採用 詳しくはこちら新卒採用 詳しくはこちら
  • 中途採用 詳しくはこちら中途採用 詳しくはこちら

手作りおもちゃ特集

No.1098 ころりんマラカス

手作りの網で戸外活動を楽しみましょう。

ページトップに戻る