おやこのひきだし
2023.04.03
シリーズ 身体障がいのある子どもたちと保育園生活 第3回(全12回)
執筆:株式会社Halu(乳幼児向けインクルーシブブランド IKOU運営)
対象:保育士、幼稚園教諭、保護者
身体障がいのある子どもたちの生活環境づくりや日常動作のサポートについてご紹介する連載の第2回目。今回は、寝たきり、食事はすりつぶしたペースト食を食べ、おしゃべりも難しい重度心身障がい児であるわが子の場合の保育園での生活をお届けします。
息子が保育園で過ごすにあたって、もっとも重要で困難な事が「きちんとした姿勢で過ごす事」と「食事」でした。なぜきちんとした姿勢で過ごさなければならないのか?それは、息子が滑脳症という病気のため全身の筋肉に力が入りにくく、背筋を伸ばして座るという事が自力では出来ないからです。また、日常的に間違った姿勢で座っていると、どんどん背骨が横に変形していく『側弯』という二次障害が起こる可能性があります。そのため、園内では『座位保持装置』という、オーダーメイドで作られた障がい児のための姿勢を保持する機能を持った椅子を使用する必要がありました。
保育園に通うにあたり、まず、この「座位保持装置にきちんとした姿勢で座らせる方法」を以前からわが子を担当して下さっている療育センターの理学療法士さんのお力をお借りして保育士の方に共有しました。理学療法士さんは入園後も定期的に保育園を訪れ、寝たきりで使っていない筋肉や関節が固まってしまわないように全身のストレッチの方法を保育士の皆さんにレクチャーして下さったり、身長が伸びた息子の座位保持椅子の細かな調整をしてくださったりと色々と協力してくださいました。保育士の皆さんもストレッチの仕方や関わり方など、動画に撮って勉強して下さったりメモして下さったりととても協力的で有難かったです。息子は民間の訪問リハビリ(自宅に来て理学療法を行ってくれる)の事業所も利用していたのですが、そこの理学療法士さんとも園と連携して、息子の体の構造や気を付けることなどをレクチャーしてくださいました。
次に食事についてです。食事は園の栄養士の方に相談をし、ご飯はお粥へ、おかず類はミキサーにかけてペースト状にする配慮をしていただきました。献立によってはミキサーにかけると水分が多くシャバシャバになってしまったり、繊維質なものは粘り気が出てしまったりと色々とお手間をおかけしたと思います。それでも1つ1つ、息子が食べやすい形状になるよう色々と工夫して下さって本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
また、食べ物を飲み込む力が弱く誤嚥(※1)の心配があるので食べさせ方一つとっても手技や慣れが必要です。ここでは療育センターで生活全般のリハビリを行っている作業療法士の方が園に出向いてくださって、保育士さんに正しい食べさせ方の指導をしてくださいました。保育園へのお迎えの時に、先生が「今日は給食を全部ペロッと平らげてくれたんですよ!」と嬉しそうに伝えてくれた事が私にとってもとても嬉しい出来事でした。
療育センターと保育園の連携がなければ、きっとあんなにスムーズに慣らし保育を終えられませんでした。他のお友達と同じように遊んだりはできないけれど、色々な方の協力で息子の保育園での生活は充実して楽しく、安心して過ごせたと思います。
私は出産前フルタイムで働いており、仕事も充実していて産後も復帰したいと思っていたのでそれが叶った事もとても嬉しかったですし、息子が家族以外の沢山の子どもたちや先生方に囲まれて、色々な刺激を受ける機会を持てたことが何より幸せでした。健常の子どもたちと同じように、保育園で製作をしたり行事に参加したり、そんな普通の日常が我が家を救ってくれたような気がします。
※1)誤嚥:食事を飲み込む際に、食べ物や水分が誤って気管に入ってしまうこと。