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保育士のひきだし

2020.09.07

保育園でよく起こる事故とは?年齢別の事故原因・保育士が気を付けたいポイント

2019年に保育園や幼稚園、認定子ども園など、全国の教育・保育施設で発生した事故は1,744件。現在の集計方法に変わった2015年以降、最多件数となったことが内閣府より発表されました。子どもの大切な命を預かる保育士にとって、安全な環境を整えることは最も重要な仕事。しかし、さまざまな事故が毎年多発しているのが現状です。

そこで今回は、保育施設でよく起こる事故について徹底解説いたします。事故の事例、年齢別の事故原因などをみながら、事故を防ぐためには何をするべきなのか、子どもの命を守るために何ができるのか、じっくりと考えていきましょう。

保育施設で起こりやすい事故と事例

まずは、保育施設で起こりがちな事故を、過去の事例とともにご紹介いたします。とくに注意を払う必要があるのは、どんなとき、どんな場面なのか確認していきましょう。

お昼寝中の事故

小さな年齢の子どもを預かる保育施設で、とくに多く発生するのがお昼寝中の事故。内閣府の報告をもとに、20152019年の5年間に起きた死亡事故件数と、死亡事故発生時の状況を下記表にまとめました。

死亡事故件数

お昼寝中(うつぶせ寝の数)

その他

2019

6

42

2

2018

9

8(2)

1

2017

8

52

3

2016

13

10(2)

3

2015

14

106

6

この表から、保育施設での死亡事故のうち、約7割がお昼寝中に発生していることがわかります。では、実際に起こった事故の事例をみていきましょう。

【お昼寝中の事故事例①】

2018103日、東京都練馬区の認可外保育園で当時生後6ヵ月の男の子がお昼寝中に死亡する事故が発生しました。職員にミルクを飲ませてもらったあとに寝ましたが、約30分後にうつぶせの状態で心肺停止になっているところを発見。吐いたミルクの誤飲による窒息死の可能性が高いことが報じられています。

【参考】毎日新聞

【お昼寝の事故事例②】

20181226日、福島県福島市の認可外保育園で当時12ヵ月の男の子がお昼寝中に死亡する事故が発生しました。正午から昼寝をはじめていましたが、午後2時ごろ父親が迎えに来た際に職員が起こそうとしたところ、うつぶせでぐったりした状態になっているのを発見。搬送先の病院で死亡が確認されました。

福島市では、1歳児は10分おき、0歳児は5分おきに睡眠の状況を確認するよう保育施設に指導していたものの、事故当日は1時間おきの確認になっていたと報告されています。

【参考】朝日新聞

プール活動・水遊びでの水の事故

プール活動や水遊びが始まる6月頃からは、水難事故が起こりがちです。つづいては、過去に保育施設で起きてしまったプール事故の事例をみていきましょう。

【プール事故事例①】

2011711日、神奈川県大和市の幼稚園で当時3歳の男の子が溺れて死亡する事故が発生しました。当該幼稚園では、プール活動中の監視と指導業務を1人の教諭が行うこととされており、子どもの監視体制に空白が生じて発見が遅れてしまったものと考えられています。

また、溺水事故など、一刻を争うような緊急事態が発生した場合の対応手順について文書などでまとめたマニュアルが無かったこと、その結果、119番通報や胸骨圧迫などの必要な救命処置が迅速に行われていなかったことも最悪の事態を招いた原因のひとつとされています。

【参考】消費者庁「消費者安全法第23条第1項に基づく事故等原因調査報告書」

【プール事故事例②】

2017824日、埼玉県さいたま市の認可保育園で当時4歳の女の子が溺れて死亡するプール事故が発生しました。事故当日は、園でのプール最終日。監視にあたっていた保育士2人が、プールの滑り台を片付けるため子どもたちから目を離してしまったことが重大事故を招いたと報告されています。

【参考】埼玉新聞

給食やおやつでの喉の詰まり

給食やおやつなど、食べているものをのどに詰まらせて窒息する事故も多く発生しています。早速、過去に起こった食事中の事故事例についてみていきましょう。

【食事中の事故事例①】

202023日、島根県松江市の認定こども園で、節分の豆まき行事の際に当時4歳の男の子が豆をのどに詰まらせて死亡する事故が発生しました。豆まき中に突然苦しみだしたため職員が119番通報し、搬送先の病院で死亡を確認。死因は大豆が気道に詰まったことによる窒息だったことが報告されています。

【参考】朝日新聞

【食事中の事故事例②】

2020212日、大阪府城東区の認可保育園で、食事中に当時12ヵ月の男の子が食べ物をのどに詰まらせたとみられ、搬送先の病院で死亡する事故が発生しました。給食のメニューは、刻まれたリンゴ・パン・トウモロコシ・ハンバーグなど。事故当日は職員3人で男の子を含めた01歳の9人をみていたとのこと。

男の子の異変に気付いた職員が背中を叩くなどの救命措置を取ったものの、意識がなくなり、搬送時には心肺停止状態だったことが報告されています。

【参考】朝日新聞

食物アレルギー反応

近年、相次いで発生しているのが食物アレルギー関連の事故。幸い死亡事故までには至らなかったものの、アレルギー食材の誤飲等でヒヤリとした事例の数々が『認定NPO法人アレルギー支援ネットワーク』によってまとめられています。ここでは、食物アレルギー対応による事例を紹介いたします。

【食物アレルギー反応のヒヤリハット事例①】

卵アレルギーをもつ3歳の女の子がおやつのおかわりをした際、職員が誤って卵入りのおやつを出してしまい、じんましんが出てしまったヒヤリハット。当日、職員は新任初日で仕事に慣れておらず、食物アレルギーに十分注意を払えていなかったとのこと。また、おかわりだったため、注意がおろそかになっていたことも考えられます。

【食物アレルギー反応のヒヤリハット事例②】

牛乳アレルギーをもつ5歳女の子が、園での手洗い後に手首から指に掛けて赤くなることがあり、母親からの問い合わせで調査した結果、園で共用していた牛乳石けんが原因と判明したヒヤリハット。当時、アレルゲン食品を食べるだけでなく、触ったり吸入したりすることで症状が出る恐れがあることを認識している職員がいなかったため、女の子は手が赤くなる症状を何度も繰り返していました。

【参考】

認定NPO法人アレルギー支援ネットワーク「食物アレルギー ひやりはっと事例集 2013」

散歩中の事故

街の自然や人々と触れ合いながら感受性や社会性などをはぐくめるお散歩ですが、外に出ることで事故に遭ってしまうケースも。ここでは、散歩中の事故事例を紹介いたします。

【散歩中の事故事例①】

201958日、滋賀県大津市で乗用車2台がぶつかる事故が発生。そのうち1台が交差点で信号待ちをしていた子どもたちの列に突っ込み、2歳児2人が死亡、1人が意識不明の重体、園児10人と保育士3人がけがをしました。

乗用車の運転手の前方不注意が事故の原因。園外保育でお散歩中の子どもたちが巻き込まれてしまった痛ましい事故事例です。

【参考】朝日新聞

【散歩中の事故事例②】

20191021日、京都府大崎山町の保育園に通う3歳の女の子がお散歩中に天王山参道の橋周辺で約3.6メートル下に滑落する事故が発生しました。事故直後、女の子には意識があり自力歩行もできたため、保育士は手と腰のすり傷の軽傷と判断。しかし、3日後に左前頭部の骨折と脳挫傷が判明し入院に至りました。

当該保育園は、事故が起こった際の対応や保護者の方への連絡体制など危機管理が不適切だったとしています。

【参考】京都新聞

年齢別の事故原因

これまでみてきた通り、保育園ではさまざまな事故が起こり得ますが、原因は年齢によっても異なります。そこでここからは、事故のおもな原因を年齢別に確認していきましょう。

01

01歳児に起きやすい事故は次の通りです。

  • まくらややわらかい布団による窒息
  • 寝がえりによる窒息
  • 誤嚥(お菓子・豆・おもちゃ・コインなど)
  • つかまり立ちでの転倒
  • 歩行中の店頭、など

23

23歳児に起きやすい事故は次の通りです。

  • 友だちとふざけて転倒
  • 滑り台などの遊具から転落
  • 階段から転落
  • 小さなものを鼻や耳に詰めて取れなくなる
  • 水遊び中に溺水
  • アレルゲン食材
  • 誤嚥(お菓子や豆など)、など

45

45歳児に起きやすい事故は次の通りです。

  • 走り回って転倒
  • 友だちとの衝突やケンカによる負傷
  • 遊具からの転落
  • 階段から転落
  • 水遊び中の溺水
  • アレルゲン食品、など

【参考】

あいちはぐみんネット「月齢・年齢別で見る起こりやすい事故」

日本赤十字社「年齢別にみたこどもの事故」

02歳児は死亡事故・35歳児は負傷事故に要注意

ちなみに、幼稚園と保育所における保育中の死亡・障害事故の分析を行った東海学園大学の報告によると、20052011年までの7年間に発生した保育中の死亡事故は全部で37件。

発生件数の内訳を年齢別にみると、1歳児が15件と最も多く、ついで0歳児6件、2歳児5件、4歳児4件、3歳児3件、5歳児2件、6歳児2件の順となっています。

【参考】東海学園大学「幼稚園・保育所における保育中の死亡・障害事故の分析・検討(1)」

なんと、死亡事故全体の約7割を占めているのが02歳児。保育施設での死亡事故を防ぐためには、とくに年齢の低い子どもに対する特別な配慮が必要であることがわかります。

一方、内閣府の報告をもとにまとめた下記表の通り、負傷事故の多くを占めているのは35歳児。

表)20152019年の5年間に起きた年齢別の負傷事故と死亡事故件数

0

1

2

3

4

5

6

合計

2019

6

1

55

3

110

2

205

299

447

177

1299

6

2018

13

(4)

50

(4)

122

180

266

419

169

(1)

1219

(9)

2017

7

2

41

2

70

1

114

209

(2)

291

147

1

879

8

2016

11

(7)

25

(4)

48

85

141

196

80

(2)

586

(13)

2015

10

7

31

5

40

1

52

(1)

96

116

54

399

14

※()内は死亡事故の件数

35歳ごろは、さまざまなことができるようになり、動きが活発になる時期です。あらかじめ事故が起こりやすい場所を特定するなど安全対策を図り、注意深く見守るようにしましょう。

【参考】

東海学園大学「幼稚園・保育所における保育中の死亡・障害事故の分析・検討(1)」,P55~

事故を防ぐためのポイント

事故事例や年齢別の事故原因を把握したところで、最後に事故を未然に防ぐために押えておきたいポイントをいくつか確認しておきましょう。

事故が起こりやすい場所を特定する

子どもは、思いがけない場所で転倒したり衝突したりするもの。そんな子どもの特性をしっかりと理解したうえで、事故が起こりやすい場所をあらかじめ特定しておきましょう。

園内の設備については、チェックリストを作成し、改善すべき部分がないか定期的に点検、および改善しておくことが大切です。

なお、危険な場所や設備の改善点などは文書などで記録し、必ず職員間で共有して、さらなる改善に努めていきましょう。

重大事故が発生しやすい場面に注意する

昼寝中・プール活動など、重大事故が発生しやすい場面では、とくに注意が必要です。少しの間でも子どもから目を離さないようにしましょう。

お昼寝中

お昼寝中は子どもの顔が確認しにくいため、発見が遅れてしまう危険性が潜んでいます。次のような点に十分注意を払うようにしてください。

  • 寝かせ方に配慮を行う
    • 医師から進められている場合以外は仰向けに寝かせる
  • やわらかい布団やぬいぐるみなどを使用しない
  • よだれかけのヒモ・布団カバーのヒモに注意する
  • 口の中に異物がないか確認する
  • 定期的に子どもの状態を点検する

なお、保育士は多くの業務に追われているため、職員会議の出席や連絡帳への記入といった事務作業をお昼寝の時間に行う場合も少なくありません。その場合でも、必ず子どもをひとりにせず、子どもの呼吸・体位などの状態を定期的に確認することを徹底しましょう。

プール活動

子どもは、鼻と口を覆うだけの水があれば溺れてしまう可能性があります。プール活動や水遊びをする際には、監視を行う保育士とプール指導を行う保育士を分けて配置し、役割分担を明確にしておきましょう。

  • 監視者は監視に専念し、全体をくまなく監視する
  • 十分な監視体制の確保ができない場合はプール活動の中止も検討
  • 時間に余裕をもってプール活動を行う

なお、動かない子どもや不自然な動きをしている子どもをいち早く発見するため、監視体制に空白ができないよう徹底しましょう。

保育士の資質向上

内閣府のガイドラインでは、下記のような研修に参加して、保育士の資質の向上に努めることも事故を予防する重要な対策として挙げられています。

  • 子どもの安全確保に関する研修に参加する
  • 救急対応(心肺蘇生法、気道内異物除去、AED、エピペンの使用等)の実技講習
  • 事故発生時の対処法を身につける実践的な研修、など

また、職員会議などで子どもの発育・発達と事故との関係、事故の起こりやすい場所などをしっかりと共有し、日頃から事故への認識や危険に対する予知能力の向上を図っておくことも大切です。

地域との交流を図る

地域の人びととコミュニケーションを図っておくことは、緊急時に助けてもらえるだけでなく、日々さまざまな情報を得られて、防犯・防災の備えにつながります。園外保育で散歩や公園へ出かける際に子どもたちと一緒にあいさつしたり、町内会の行事に参加したりして、円滑な関係を築いておくとよいでしょう。

まとめ

保育中に起こる事故を防ぐためには、事故が起こりやすい場所を特定し、危険性や改善点を園内でしっかり共有しておくことが大切です。重大事故が発生しやすいお昼寝中やプール活動、食事中などはとくに注意を払い、しっかりと子どもたちを見守りましょう。なお、事故防止に関わる研修などに積極的に参加したり、地域との交流を深めたりしておくことも良策ですよ。

事故防止に対する意識をいま一度高めて、子どもたちの大切な命を守っていきましょう。

【参考】

内閣府「「令和元年教育・保育施設等における事故報告集計」の公表及び事故防止対策について」

内閣府「「平成30年教育・保育施設等における事故報告集計」の公表及び事故防止対策について」

内閣府「「平成29年教育・保育施設等における事故報告集計」の公表及び事故防止対策について」

内閣府「「平成28年教育・保育施設等における事故報告集計」の公表及び事故防止対策について」

内閣府「「教育・保育施設等における事故報告集計」の公表及び事故防止対策について」

内閣府「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」


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