保育士のひきだし
2020.05.20
「素話」は保育士の必須スキル!上手に話すコツやその効果、代表的な素話を紹介
素話は、絵本や紙芝居など一切の小道具を使わない素朴なお話のことです。素話は保育士試験の実技試験にも組み込まれているので、保育士にとって必須のスキルと言えます。この記事では保育士として素話のスキルを身につけるためのポイントから、素話のねらい、代表的な題材をご紹介いたします。
そもそも素話って何?
素話は、絵本や紙芝居を使わずに保育士の語りかけのみで伝える物語を指します。道具を必要としないため、活動の合間やちょっとした待ち時間を埋めることができるのが大きな魅力です。基本的に素話はグリム童話やアンデルセン童話、イソップ童話などの民話や日本昔話、保育士が考えたオリジナルのストーリーなどです。民話や昔話を伝えるといっても、「一言一句を間違えずに丸暗記しなければならない」というわけではありません。大きな改変はNGですが、大筋が原作に沿っていれば、内容を自分の言葉に変えてもOKです。オリジナルのストーリーを語るときは、子どもの反応を見ながら話の展開を考え、あなたの個性を生かしていきましょう。
素話の基本的なポイントや盛り上げるコツ!
素話は視覚的に楽しめるイラストを使わないため、子どもたちは「耳」から伝わる言葉で物語を想像します。中には集中力が続かずに飽きてしまう子どももいるでしょう。しかし、基本的なポイントを押さえておけば、子どもの興味をしっかりと惹きつけられます。それでは、素話の基本的な心がけや盛り上げるコツをチェックしていきましょう。
事前に話の流れを頭に入れておく
まず、ストーリーを語る際は「話の流れを頭に入れておくこと」が大切です。世界の民話や日本の昔話を語る途中で保育士が「あれ、この後の話ってこうだっけ?」「キャラクターの名前忘れちゃった…」と発言してしまうと、子どもたちはたちまち現実の世界に引き戻されてしまいます。話のテンポが悪くなり子どもたちの気分も盛り上りません。既存のストーリーを語るときは、元となる文章や絵本などを繰り返し読んで、全体の流れをつかんでいきましょう。話を起承転結に分けて覚えたり、動画を見て覚えたりするのもおすすめです。
子どもが聞き取れるようにゆっくりと話す
素話は視覚的な情報で補えない分、子どもが言葉だけでストーリーを理解できるように、ゆっくりと話しましょう。素話は自分の言葉でストーリーを伝えるため、ついつい普段話しているテンポで語ってしまいがちです。しかし、素話は絵本や紙芝居のようにイラストがないため、話のテンポが早すぎると展開についていけなくなってしまいます。「あれ、今何を話しているの?」と子どもが困惑しないように、子どもが聞き取りやすいスピードで、なおかつ大きな声で話しましょう。
ジャスチャーは控えめに&表情は豊かに
素話の際に「盛り上げるために体で表現しよう!」という人もいますが、ジェスチャーは控えた方がよいでしょう。ジェスチャーが大きすぎると、子どもが話に集中できなくなってしまいます。とはいえ、ただ淡々と話しているだけでは盛り上がりません。そんなときは、身振り手振りの表現を抑える代わりに「表情」をつけてみましょう。登場人物のせりふを話すときに笑顔や悲しい顔、驚いた顔など、シーンに合った表情をつければ、子どもたちに「共感」が生まれます。
声のトーンに強弱をつけてダイナミックに
シーンに合わせて声の強弱をつけるのも素話を盛り上げるコツです。ずっと同じトーンで話していると、ストーリーの山場が分からず子どもが退屈してしまいます。緊迫したシーンや悲しいシーンのときは声を小さくして、急展開やにぎやかなシーンのときは声を大きくして、ダイナミックな演出をしましょう。登場人物によって声の高さや口調を変えるのも1
つのテクニックです。
部屋を暗くして雰囲気を作ろう
部屋を暗くすると、視界からの情報が少なくなるため、子どもの聴覚がさらに研ぎ澄まされ、話に集中できます。いつもと違う雰囲気に、子どももワクワクするでしょう。お昼寝のときは、眠気を誘うような優しい声音で語りかけるのがポイントです。
素話のねらいは?どんな効果があるの?
素話は保育園や幼稚園でよく取り入れられていますが、具体的にどんなねらいがあるのでしょうか?ここでは、素話が子どもに与える影響や効果について解説していきます。
たくさんの言葉に触れて言語力を身につける
素話でたくさんの言葉に触れることで、子どもの言語力が育ちます。保育所保育指針では次のように表記されています。
保育士等は、絵本や詩、歌など、子どもが興味や関心をもって言葉に親しむことのできる環境を整えるとともに、子どもに対して、日常の挨拶をはじめとして生活や遊びの中で丁寧に温かく言葉をかけながら関わるよう心がける。
(中略)
保育士等の表情、声色、身振りなども、言葉と一体となり、重要な役割を果たす。そうした豊かな言葉の世界に触れる経験や、保育士等の温かい語りかけに心地よさや嬉しさを感じる経験を通して、子どもは大人の言うことを模倣したり、耳にした言葉を遊びの中に取り込んだりして、自分も言葉を使うことを楽しむ。
子どもは周囲の大人の言葉を聞いたり、自分が覚えた言葉を使うことで、少しずつ言葉を身につけていきます。素話で保育士の話を「聞く」ことで、物の名前や言い回しなどを覚えていくでしょう。
【参考】厚生労働省「保育所保育指針解説」P162「エ 言葉の獲得に関する領域「言葉」」
子どもが集中して保育士の話を聞くようになる
素話にはイラストがないため、子どもたちは「聞くこと」に集中します。もちろん、年齢が低い子どもの場合は、長時間集中することが難しいかもしれません。ただ、保育士の工夫次第で、徐々に集中力が身についていきます。練習を重ねて、子どもたちの興味を引き出していきましょう。
想像力が豊かになる
素話は保育士の言葉だけでストーリーをイメージするので、想像力が育まれます。子どもは、保育士の語りかけから、登場人物の外見や表情、それぞれのシーンを自分の記憶と想像力を使って頭に思い浮かべます。目に見えないものや、自分のいる世界とは違う世界を想像することで、子どもの心は豊かになります。
思いやりの心を育む
素話を通して、子どもは「感受性」も身についていきます。例えば、登場人物が泣いているシーンでは、子どもは「悲しいのかな」「○○が嫌だったのかな?」と登場人物の心情を汲み取ります。これを重ねていくうちに、相手の気持ちを思いやる優しい心が育っていくでしょう。相手がどんな気持ちなのかを考えたり、共感したりすることは、コミュニケーションで大切なことです。より子どもの感受性を引き出したい場合は、登場人物の気持ちが繊細に描かれたものや、メッセージ性の強い物語を選ぶとよいでしょう。
保育士や友だちとコミュニケーションが取れる
素話は保育士と子どもがコミュニケーションを取れるよい機会です。素話の途中で、保育士が子どもに「○○だね」「この後どうなるかな~?」と語りかけることで、子どもは保育士とストーリーの世界観を共有でき、「満足感」が得られます。子どもが友だちと「面白かったね」と感想を言い合うことで、友情も育まれます。
迷ったらコレ!子どもに人気の素話や昔話
素話にぴったりの作品を6つ取り上げていきます。3分で語れる民話と、王道の昔話をピックアップしたので、目的に合った作品を選んでくださいね。
3分で簡単に語れる面白い素話3選
ちょっとした待ち時間におすすめの作品を3つピックアップしました。
ホットケーキ
『ホットケーキ』はノルウェーの代表的な昔話です。『おだんごぱん』『パンはころころ』というタイトルでも親しまれています。フライパンから逃げ出したホットケーキが、道で転がっていく中で、アヒルやガチョウなどの動物たちと出会い、彼らに食べられないように逃げていくというストーリーです。ストーリーが簡単で話も短いため、低い年齢の子どもにおすすめです。
赤ずきん
グリム童話として有名な『赤ずきん』は、起承転結が分かりやすいため、素話初心者にはぴったりです。主な登場人物は赤ずきん・オオカミ・おばあさん・猟師の4人のため、話やせりふも覚えやすいでしょう。
三びきのやぎのがらがらどん
こちらも『ホットケーキ』と同じく、ノルウェーの昔話です。小さなヤギ、中くらいのヤギ、大きなヤギが、橋を渡る途中で出会った「トロル」という化け物に立ち向かうというストーリーです。声を低くしたり、口調を工夫したりして、トロルの怖さを演出すれば盛り上がること間違いなし。
素話にぴったりな王道の日本昔話3選
なじみの深い日本の昔話の内容と素話をするときのポイントをご紹介いたします。
桃太郎
桃から生まれた桃太郎が、鬼を退治するために犬・猿・キジを引き連れて鬼ヶ島へ行くという、王道の日本昔話です。鬼ヶ島で桃太郎たちと鬼が戦うシーンでは、ちょっとしたアドリブも交えると、より盛り上がるでしょう。
花咲かじいさん
愛犬シロと一緒に暮らす心優しいおじいさんとおばあさん。ある日、シロが「ここほれワンワン」と示したところを掘ってみると、土の中から小判がたくさん出てきます。それを見たお隣のよくばりじいさんはシロを利用しようとしますが…。優しい心を持つことの大切さや、「よくばりはいけない」という教訓が含まれた昔話です。
鶴の恩返し
青年に命を救われた鶴が、人間の女性の姿となって恩返しに来るという美しいストーリーが魅力です。決してハッピーエンドではありませんが、子どもの感受性を育むにはぴったりの昔話と言えるでしょう。
まとめ
素話は子どもの集中力や想像力、感受性を育む助けになります。今回取り上げた素話のポイントや盛り上げるコツなどを生かして、今後の保育に役立てくださいね。