保育士のひきだし
2020.03.13
【保育士さん必見】保育園のお散歩を安心して楽しむために
近年、園児のお散歩中におこる痛ましい交通事故が増え、お散歩の必要性の議論が絶えません。しかしお散歩は外遊びの一環で、街の様子や交通マナーを学ばせる大切な保育です。本記事では、お散歩のねらいや注意点(事前の確認から当日の行動について)をみながら、お散歩中によくあるトラブル、お散歩の持ち物について解説いたします。
保育園のお散歩には「ねらい」がたくさん!
保育の活動にはすべて「ねらい」があります。お散歩にはどんなねらいがあるのでしょうか。チェックしていきましょう。
適度な運動によって生活習慣を整える
お散歩には次のようなねらいがあります。
- 体力がつく
- 食欲が増進する
- ぐっすり眠れるようになる
- ストレスを発散できる
まず、運動量が増えることで体力が向上し、食欲も増進します。園庭がない保育園の場合、お散歩は子どもたちにとってストレス発散にもなるでしょう。さらに、日光を浴びることで体内時計を整え、睡眠を誘発する「セロトニン」の分泌を促す効果も期待できます。
【参考】
秦野市 子育て若者相談課「子どもの睡眠~成長ホルモンが作用~」
植物や生き物に触れて感受性を育む
お散歩中は草木・花・虫・動物に触れる機会があり、子どもの感受性が育まれます。「木はどうやって大きくなるんだろう」「この花はどうしてこんな色なんだろう」という関心が促され、学びが広がります。「植物や生き物も自分と同じように生きている」という命の大切さも実感できるでしょう。また、手触り・匂いが刺激されると、五感が鍛えられ、さらに季節感が味わえます。
交通ルールを理解する
お散歩中の街の様子から子どもは交通ルールを学びます。
- 信号は赤や黄色のときは止まる、青のときに渡る
- 横断歩道は左右を確認してから手を挙げて渡る
- 歩道を歩くときはできるだけ車道から離れる
警察庁交通局が発表した「平成29年中の交通事故の発生状況」では、5~9歳児の歩行中の事故発生率がほかの年齢層よりも多いことが明らかになりました。まだ歩きがおぼつかない0~1歳や、自己主張が強くなってきた2~4歳への配慮はもちろん、ある程度自立した5歳にも、繰り返し交通ルールを教えることが大切です。
集団で行動し協調性を身に付ける
基本的にお散歩は集団行動です。その中で、子どもは「前の人から離れて歩いたら、後ろの人が困っちゃうかな」「先生と手をつなぎたいけど、小さいクラスの子に譲ろう」のように協調性を身に付けます。また、複数のクラスでお散歩をするときは、年上の子どもが車道側を歩いたり、年下の子どもに交通ルールと教えたりする場面もあるでしょう。年下の子どもも、そんな年上の子どもを見て成長していくため、お互いによい影響があります。
地域の人と関わり社会性を身に付ける
お散歩中、地域の人と交流することで、社会性が身に付きます。園内だけで過ごしていると、初対面の人や幅広い年代の人と親しくなる機会はあまりありません。地域の人と関わることで、子どもに必要な社会性が育まれます。また、保育園にとっても、地域の交流は欠かせないものです。地域の人との交流を深めて、子どもがのびのびと成長できる環境作りを目指しましょう。
お散歩中はこんな事故やトラブルに要注意!
お散歩中に想定される事故やトラブルの例をチェックして、安全・安心なお散歩を目指しましょう。
歩行者や自転車・車にぶつかる
お散歩では、道で歩行者や自転車、車とすれ違う場面があります。どんな危険が予測されるか考えなくてはいけません。相手がバランスを崩したり、地面が雨や雪で濡れていると、思わぬ事故に発展する可能性もあります。子どもがはしゃいで車道側に出てしまうケースもあるでしょう。常に周囲へ目を向けて危険がないかしっかり見守ることが大切です。
転んでけがをする
普段歩き慣れていない場所では、子どもが転ぶことも多くなります。道路やブロックのひび割れや段差なども、けがの原因です。また、目的地の公園や広場でも、遊具で指を挟んだり、転落の可能性もあるため、歩行中だけでなく、遊びの最中も危険がないか常に目を光らせておきましょう。
熱中症や日焼け・虫刺され
暑い日は、子どもの熱中症や日焼けにも注意しましょう。特に夏場は気温が高く紫外線の量も多いため、小まめな水分補給と日焼け止めの塗り直しなどが必要です。また、蚊や蜂、毛虫がいそうなところには近づかないように声をかけたり、蚊取り線香や虫よけスプレーの用意も忘れずに。
お散歩へ行く前にすべきこと3つ
安全で楽しくお散歩をするためには、事前準備が重要です。ここでは、お散歩に行く前に調べておくべき事項を解説します。
① 交通量の少ないルートや時間帯を選ぶ
お散歩は、車や人の少ないルートや時間帯を選びましょう。交通量が多いと、それだけ事故やトラブルが発生しやすくなります。なるべく大通りを避け、閑静な住宅街や裏道を通るのがおすすめです。大通りでも、歩行者用の白線やレール、歩道橋があるルートを選ぶようにしましょう。時間帯は、通勤・通学ラッシュが落ち着いた午前10時以降がねらいめです。
② お散歩ルートを下見する
事前にお散歩ルートを下見して、危険がないか調べておきましょう。例えば、事故多発の看板がある場所、設備が整っていない道はお散歩にふさわしくありません。ルートを変更する対応が必要です。危険を感じる場所があれば、事前に注意を促しましょう。
③ 計画書やお散歩マップを作る
お散歩ルートの下見が終わったら、ほかの保育士や保護者の方と情報を共有しましょう。お散歩の流れや注意点を記入した計画書を作り、会議や朝のミーティングで共有できるようにしてください。また、お散歩ルートや周辺の地図を描いた「お散歩マップ」を作って園内に張り出している保育園もあります。「ここに花畑があるよ」「この公園はボール遊び禁止!」など、周辺の情報を添えておけば、子どもだけでなく保護者の方の目にも触れるため、全体への情報共有も可能です。
【参考】厚生労働省 子ども家庭局保育課「保育所等における園外活動時の安全管理に関する留意事項」
お散歩に必要な持ち物リスト
保育園によって持ち物は多少異なりますが、主な必需品をリストアップしました。
- 子どものオムツや着替え
- 予備の水・お茶
- ティッシュ
- 救急セット
- ビニール袋
- 虫よけスプレー・日焼け止め
- 計画書・お散歩マップ
- 子どもの名簿
- 警笛・防犯ブザー
- 携帯電話
お散歩中に子どもがおもらししてしまったときや、遊んで汚れてしまったときのために、オムツや着替えは必ず用意しておきましょう。けがのための救急セットやティッシュなども必須です。また、業務用の携帯電話に、保育園やかかりつけ病院の電話番号を登録しておくと、事故が起きたときも慌てず対応できます。
安全第一!お散歩当日に気を付けること
歩き慣れた場所でも、どんなことが起きるか分かりません。想定される危険を頭に入れて、子どもの安全を守りましょう。
お散歩の直前に子どもたちと約束事を確認する
お散歩に行く前は、子どもたちとお散歩のルールやマナーを確認し、事故やトラブルの防止を促しましょう。
- 前の人を抜かさない
- なるべく前の人から離れずに歩く
- 車道に飛び出さない
- 公園内の場合、車道に近い場所では遊ばない
- 店頭のものに触らない
- 人の家の敷地内には入らない
- 靴がしっかり履けているか自分でチェックする
上記のような約束事を「このルールがあるのはどうして?」と問いかけ、意味の理解を促せば、子どもたちの安全の意識が高まります。
横断歩道の信号が点滅したら渡らない
信号が黄色、もしくは点滅した場合は、無理に渡らないようにしましょう。大人数でのお散歩は、列が分裂しないよう、焦って信号を渡ろうとしてしまうかもしれません。しかし、そのちょっとした焦りが事故につながることがあるのです。全体を意識することは大切ですが、お散歩ではまず、子どもの安全を優先させましょう。横断歩道を渡るときは、先頭と中央、最後尾だけでなく、列の外側にも保育士を配置させ、人や自転車、車の飛び出しのほか、子どもの転倒にも備えられる体制を整えておきましょう。
安全に配慮しながら楽しい声かけも
お散歩中は安全に配慮することが一番大切です。夏場は、公園の遊具が熱くなっていないか、前日に雨が降っていた場合は、遊具が濡れていないか、しっかり確認しましょう。
ただ、安全に配慮するだけでは、楽しいお散歩にはなりません。「このお花きれいだね。○○っていう名前のお花なんだよ」と季節の植物の名前を教えたり、「今から落ち葉をいっぱい集めた人が勝ちね!」と遊びを提案したりして、子どもの好奇心を刺激しましょう。
地域の人へきちんとあいさつする
お散歩中に出会う街の人、保護者の方には明るくあいさつしましょう。保育士から明るくあいさつできれば、子どもたちもまねてあいさつできるでしょう。お散歩中は子どもたちの様子に気を取られがちですが、地域の人たちとの交流も心がけましょう。
お散歩中に事故が起きてしまったときの対応
万が一、お散歩中に事故が起こってしまったときは、どのような対応を取ればよいのでしょうか?
まずは情報を把握してから保育園に連絡する
子どもがけがをしたときは、応急処置の後、事故やけがの経緯を正しく把握しましょう。その後、ほかの保育士と情報を共有し、保育園へ連絡します。病院へ行く必要性の有無を話し合った後の流れは次の通りです。
<けがが小さい場合>
- 意識もしっかりしていて体も自由に動かせるなら、しばらく様子を見る
- 保育園に到着したら、保育士もしくは看護師が改めて視診・処置
- 子どもが降園の際に、保護者の方へ原因説明・謝罪
- 事故報告書を記入し、情報共有する
<けがが大きい場合>
- 頭部の負傷、もしくは出血が多い場合は、タクシーや送迎バスで病院へ連れて行く
- 保護者の方へすぐに連絡し、状況説明をする
- 保護者の方と対面したら、再度状況説明と謝罪
- 事故報告書を記入し、情報共有する
子どもを病院へ連れて行くときも、連れて行かないときも、けがの経緯の把握や振り返りは必要です。冷静な判断で状況を正しく把握できるようつとめましょう。
警察や救急車が必要な場合はすぐに呼ぶ
歩行者や自転車、車と子どもが接触したときは、すぐに警察を呼びましょう。相手の名前や住所、電話番号を聞いてメモを取り、相手に逃げられないようにします。不審者が現れた場合は、子どもを安全な場所へと誘導し、警笛や防犯ブザーを鳴らしたり、警察へ連絡しましょう。子どもが大きなけがをしている、もしくは意識がない場合は、救急車を呼んでください。救急車が来るまでは、応急手当や心臓マッサージをしましょう。
ほかの子どもを安全な場所へ避難させる
けがをした子どもだけでなく、そのほかの子どもの安全も確保しましょう。保育士間で「連絡役」「けがをした子どもの手当役」「全体を誘導する役」の役割分担をして、子どもを安全な場所に誘導しましょう。
【参考】横浜市こども⻘少年局 保育・教育運営課「事故防止と事故対応」
ポイントを押さえて安全で楽しくお散歩しよう
お散歩は安全第一です。しかし、お散歩のねらいは自然や街の人と触れ合いながら、感受性や社会性を育むことです。子どもたちが楽しんでお散歩できるよう、安全に配慮することが保育士の役割です。