保育士のひきだし
2019.06.14
縦割り保育のメリット・デメリットを解説
最近では、少子化の影響もあり年齢の異なる子ども同士で遊ぶ機会が減少しつつあります。そこで近年注目されているのが、『縦割り保育』。年齢の垣根を越え、発達段階の異なる子どもたちが交流できる場として、縦割り保育を取り入れている保育園や幼稚園が増加傾向にあります。
「でも、縦割り保育って子どもに負担が多そう…。」
「縦割り保育は難しそう…。」
など、いざ縦割り保育を取り入れるとなると、少々難しさも感じますよね。
そこで、縦割り保育の特徴を徹底解説します。メリットとデメリットの両面をしっかりと把握し、縦割り保育の魅力を探っていきましょう!
縦割り保育とそのねらい
まず、『縦割り保育』の内容を簡単におさらいし、縦割り保育を実施する目的を確認していきましょう。
縦割り保育とは?
縦割り保育とは、0歳児クラス・1歳児クラス…と年齢ごとにクラス分けをするのではなく、さまざまな年齢の子どもでグループやクラスを作って一緒に保育を行うこと。縦割り保育のほか、『異年齢保育』や『混合保育』などとも呼ばれています。
縦割り保育のクラス分けや保育の方法は各保育園によって異なり、次のようにさまざまな形で取り入れられています。
- 日によって縦割り保育と横割り保育(年齢ごと)を分けて縦割り保育する
- 0~2歳児、3~6歳児の2つのクラスに分けて縦割り保育する
- 課外活動や食事・おやつの時間のみなど、一日の数時間を縦割り保育にする
- クラスを配置せず、園全体で保育するなど
なお、通常は年齢ごとの横割り保育を行っている保育園でも、園のイベント時や延長保育の時間のみ縦割り保育を取り入れている、というケースもあります。
縦割り保育のねらいとは?
縦割り保育の内容を確認したところで、続いては、縦割り保育を実施する目的を把握していきましょう。
冒頭でもお伝えした通り、近年、少子化によって年齢の異なる子ども同士の関わり合いが減少しています。以前は、兄弟姉妹、ご近所の子ども同士、みんなで遊ぶ姿が多くみられました。年齢の異なる子どもたちが一緒になって遊ぶ中では、年上の子が年下の子の面倒を見たり教えたり、年下の子が年上の子にあこがれたりまねしたりすることでしょう。子どもたちは、遊びを通して人との関わり合いを学び、生きていくために必要な力を身につけていったのです。
そして、このような関わり合いが少なくなってしまった現代で、子どもたちが共に学び合い、成長し合うことを目的として『縦割り保育』が提案されたのです。
人との関わり合い、社会性や協調性、思いやる気持ちなど、縦割り保育を通して生きる力を育んでいくことが期待されています。
縦割り保育のメリットとデメリット
それでは、実際に縦割り保育を取り入れた場合、どんなメリットやデメリットがあるのか、具体的に確認していきましょう。
縦割り保育のメリット
縦割り保育には、主に次のようなメリットがあると考えられています。
- 年下の子と接することで年上の子が学べる
- 年上の子と接することで年下の子が学べる
- 友だちの幅や居場所が広がる
- クラスの状態が安定する
- 成長の差・個人差が目立ちにくい
一つずつ詳しくみていきましょう。
年下の子と接することで年上の子が学べる
縦割り保育では、自然に年上の子が年下の子の面倒をみるようになります。そのような中で、年上の子は次のようなことを学び身につけていきます。
- 年上としての自覚が芽生え、自尊心・責任感が育つ
- 年下の子を配慮し労わることで、思いやりの心が育つ
- 教えることで遊びが深まり、創意工夫するようになる
- 年下の子を見守り、お世話することで忍耐力がつく
- 年下の子に教えることで自分に自信を持つようになる、など
年上の子と接することで年下の子が学べる
年下の子にとって、いろいろとできる年上の子は憧れのお兄さんやお姉さんのような存在。そんな年上の子と接することで、年下の子は次のようなことを学び身につけていきます。
- 年上の子に憧れを抱き、目標を持って意欲的にまねしようとする(向上心が芽生える)
- 年上の子に優しくしてもらうことで、自分自身も年下の子へ同じように接することができるようになる
- 自分のことを自分で行う年上の子を見て自立心が育つ、など
友だちの幅や居場所が広がる
年齢ごとの横割り保育では、同年齢の友達が多くなりがちです。しかし、縦割り保育を取り入れることで、年上の友達・年下の友達を作ることが可能に。そして、友だちの幅が広がることで、子どもたちは自分の居場所を増やすことができます。
クラスの状態が安定する
縦割り保育をすることで、年上の子は年下の子のお手本になろうと努め、年下の子は年上の子を目標として行動するようになるので、自然とクラスの状態が安定する傾向があります。
成長の差・個人差が目立ちにくい
幼児期は成長のスピードに差が出やすいもの。例えば、4月生まれと3月生まれの子では発達状況が大きく異なってしまいます。横割り保育で周りに同年齢の友達しかいない場合、子どもたちはこういった成長の差にコンプレックスを感じてしまう場合も。
しかし、縦割り保育ならそもそも年齢の幅が広いので、成長の差が目立ちません。そのため、子どもの劣等感を防ぐことにもつながります。
縦割り保育のデメリット
続いて、縦割り保育の主なデメリットは次の通りです。
- 安全性の確保への配慮が必須
- 異年齢との交流がストレスになる場合も
- 発達段階の差に配慮が必要なため保育士にも負担がかかる
一つずつ確認していきましょう。
安全性の確保への配慮が必須
縦割り保育では、同じ年齢の子どもが集まる横割り保育に比べて危険が多く伴う場合があります。年上の子と年下の子ではできることが異なるので、特に外で遊ぶ際にはそれぞれの子どもの安全に配慮する必要があります。
また、年上の子が年下の子の面倒を見ている際も用心深く見守ることが必要です。年下の子を抱っこしてあげようとした際に、転落や転倒してしまうようなケースもあるので要注意。縦割り保育をする際は、より全体に気を配るようにしましょう。
異年齢との交流がストレスになる場合も
縦割り保育によって、子どもがストレスを感じてしまう場合もあります。年下の子が年上の子にいじわるをされてしまったり、年上の子が年下の子に順番を割り込まれる、おもちゃを取られてしまうことがあるなど、年齢の異なる子ども同士の交流によってトラブルが多発することもあるのです。普段、異年齢の子とあまり接する機会のない子どもは、このような状況に不安を感じたり、イライラしてしまうことも。
子どもたちを細やかに観察し、ストレスを感じているような場合にはしっかりとフォローしてあげることが大切です。
発達段階の差に配慮が必要なため、保育士にも負担がかかる
縦割り保育では、発達段階が異なる子どもたちが集まるため、全員が楽しめるような工夫が必要になります。
年上の子に合わせた保育内容だと、年下の子が理解できず遊びに入ってこられなくなってしまいますし、反対に、年下の子にばかり合わせてしまうと年上の子が物足りなく退屈してしまうことに。
そのため、年上の子も年下の子も興味を持てる保育内容を検討することが必要となり、その分保育士に負担がかかってしまいます。
縦割り保育での注意点
これまでみてきた通り、縦割り保育にはたくさんのメリットがありますが、いくつかのデメリットもあります。その両面を踏まえた上で、実際に縦割り保育を取り入れる際に保育士が注意すべきポイントをしっかり確認していきましょう。
年上の子への負担にならないよう配慮する
縦割り保育のメリットの一つが、年上の子が年下の子の面倒をみることにより、思いやりや責任感などさまざまな生きる力を身につけていけること。しかし、年下の子のお世話を義務としてしまうと年上の子が負担に感じてしまう場合があります。
そのため、保育士は子どもたちが自主的に関わっていけるように配慮してあげることが必要です。
年下の子の対応に困っている子どもがいたら声のかけ方を伝えるなど、年上の子の負担がかかりすぎないようすかさずフォローできるようにしましょう。
安全面に配慮し細心の注意を払う
すでにお話した通り、異年齢の子どもが集まる縦割り保育にはより危険が伴う場合があります。外遊びをする場合には、年齢によってできることが異なるので、それぞれの子どもの安全に気を配りましょう。
また、年上の子が年下の子の面倒をみるといっても、年の差はわずか1~2歳。抱っこをしようとして転んだり、年下の子を落としてしまうといった危険性も伴います。常に細心の注意を払って子どもたち全体を見守ってあげましょう。
年齢や発達に合わせたおもちゃを用意する
縦割り保育をする場合、けがや事故を防ぐため、年下の子に合わせたおもちゃを用意しがちです。しかし、子どもの年齢によって、興味を持つおもちゃ、発達に適したおもちゃは異なるもの。誤飲が心配だからと4~5歳児用のおもちゃを禁止してしまったら、4~5歳児の子どもたちは楽しく遊ぶことができません。
部屋に仕切りを作っておもちゃごとに遊ぶ場所を決めるなど、安全面をしっかり考慮した上で、年齢や発達に合わせたおもちゃを準備してあげるようにしましょう。
年齢ごとの活動も取り入れる
運動や制作など、年齢ごとにした方がより安全により質の高い活動が行える場合があります。
そのため、必要に応じて年齢ごとの横割り保育を取り入れることもポイントです。
保育園によっては、基本的な活動を縦割り保育にしつつ、一部の時間帯のみ年齢別の活動を取り入れていたり、曜日ごとに縦割り保育・横割り保育を分けていたり、発表会や運動会などのイベント時に一時縦割り保育を取り入れているところもあります。
発達年齢に応じた集団活動も大切なことです。縦割り保育と年齢ごとの活動をバランスよく取り入れていくとよいでしょう。
まとめ
年齢の異なる子ども同士がそれぞれに受け入れ合い、年上の子も年下の子もお互いに成長し合える、メリット豊富な『縦割り保育』。
ただし、メリットがある一方、いくつかの気になるデメリットもあります。普段から年齢の異なる子ども同士で触れ合う機会が少ない子どもにとっては、縦割り保育そのものがストレスになってしまうことも。また、安全を確保するために子どもをより注意深く観察することが求められたり、子どもがストレスや不安を感じてしまわないよう、それぞれの子どもに合わせたサポートが必要になったりと、同年齢が集まる横割り保育より保育士の負担も増えることになります。
しかし、縦割り保育を取り入れることで、子ども同士が共に学び合い育ち合っていく姿を日々感じることができますし、何よりも保育の幅が広がって保育士自身のスキルアップ、成長にもつながっていくことでしょう。
縦割り保育のメリットとデメリットの両面をしっかり踏まえた上で、上手に向き合ってみてくださいね。