保育士のひきだし
2018.12.25
保育士が直面する保護者トラブル 原因や対応方法について解説
保育士の仕事は子どもとの関わり以外にも多岐に渡ります。その中でも保護者対応は大切な仕事の1つです。保護者が保育士に良い感情を抱いていないと、子どもも保育士に慣れてくれないというケースも。そうならないためには、保護者と密なコミュニケーションを図ること、そしてトラブルを回避する必要もあります。
トラブルを回避するためには、まずはトラブルの原因を知っておくことが大切です。また、トラブルが起きてしまったときの対処方法によって、その後の保護者との関係性が決まりますので、対応は慎重に行いたいところ。
保護者トラブルが起きる原因や保護者の心理、対処方法についてご紹介します。
保護者とトラブルになる原因は?
まずは保護者とトラブルになる原因について見ていきましょう。
保育士にとっての子どもと保護者にとっての子どもへの思いが違う
保育士にとっては、保育園にいる全ての子ども、クラスを担当しているすべての子どもが平等に大切です。しかし、保護者にとっては何よりも我が子が一番大切なのです。
もちろん保育士が大勢の子どもを見ているということは理解していますが、それでも自分の子どもを一番良く見てほしい、かわいがってもらいたいというのは保護者の普通の心理です。
その思いをくみ取らずに対応してしまうとトラブルの原因となります。
価値観や考え方が違う
価値観や考え方は人それぞれ違います。保育士が良かれと思って取った行動や関わりが、保護者に不快感を与えてしまうこともあります。
たとえば、子どもが着脱などの身の回りのことを「できない」と言ったとき。少しずつ自分でできる様にすぐには手を貸さずに見守っていたとします。しかし保護者の中には、手を貸してもらえなくて子どもがかわいそう。どうして手伝ってあげないのだろう…という保育士への不信感につながる恐れもあるのです。
保育士はあえて手を貸さずに見守っていたのですが、その思いは保護者に伝わっていません。不信感はクレームやトラブルの原因になります。
お金を払ってプロに預けているという意識
認可保育園では、収入に応じた保育料を市区町村に収めています。そのため厳密には、園や保育士に対してお金を払って子どもを預けているわけではありません。しかし、保護者側からすると、保育料を払ってプロに子どもを預けているという感覚です。
お金を払っているのだから、質の高い保育をしてもらいたいと思うことは自然なことです。
実際に保育士は保育のプロです。豊富な保育知識を持ち、いつでも子どもに対して適切な関わりをしてくれることを保護者は求めています。
その保育士像から離れてしまうことで、トラブルの原因となることは少なくありません。
保育士間での対応の違い
同じ保育園で働いている保育士であっても、全く同じ保育を行うことは不可能です。いろいろなタイプの保育士がいることは子どもにとってもプラス要素となります。
しかし、大きな保育観や保護者に伝える情報が保育士間で共有されていないことは問題です。この先生に聞いたらこう言われた、しかし他の先生に聞いたら全く違う返答をされたという状態が続くと、保育園に対する不信感は募りトラブルの原因となります。
言葉の行き違いや誤解
自分はそんなつもりはなかったのに、言葉の行き違いが起こり相手の機嫌を損ねてしまった、ということは日常でもよく起こるトラブルです。
それは保育士と保護者も同じ。
- 子どもの気になる部分を保護者と共有しようとして話をしたのに、子どもを悪く言っていると受け取られてしまった。
- 保護者へのお願いとして伝えようとしたが、苦情として伝わってしまった。
伝え方1つで、相手の受け取り方は全く変わります。
よくある保護者とのトラブル
トラブルを回避するためには、保護者とのトラブルを知ることから始めましょう。具体的にご紹介します。
- 子ども同士のケンカ
- 保育士の対応についてのクレーム
- 園行事に対してのクレーム
- 園の方針についてのクレーム
- けがが続くことに対しての不信感
- 保育内容に対してのクレーム
子ども同士の問題から保育士や園に対するクレームまで。1つの出来事によって起こるトラブルもあれば、日々の不信感が募って起こるトラブルもあります。
保護者とトラブルになったときの対応方法
では実際にトラブルが起きたときには、どのように対応することで保護者からの信頼を取り戻すことができるのでしょうか?トラブルの内容別に見ていきましょう。
子ども同士のケンカ
保育園は集団生活の場ですので、子ども同士のケンカやトラブルは日々起こります。小さなケンカであればその場で保育士が仲裁して収まりますが、けがが起きたり、大きなトラブルの場合には保護者からのクレームにつながることも…。
【対処法】
まずは、保護者の話をしっかりと聞きます。大切なことは、途中で話をさえぎらないこと。事実と異なっている場合も、まずは最後まで話を聞きましょう。
保護者が話し終わったら、説明不足で心配をかけてしまったこと、けががあった場合は子どもに痛い思いをさせてしまったことを謝罪します。
その上で、実際の状況を詳しくお伝えしましょう。トラブルが起きた発端とそのときに保育士がいた場所、トラブルが起きたときの対応、けがが起きたときにはけがへの対応を細かく伝えます。
最後に再度謝罪し、今後トラブルが起きないようにしっかりと見守っていくことを伝えましょう。
保育園で起きたことは全て園の責任です。相手の保護者と直接話をさせてください、と言われる場合もありますが、保護者同士のトラブルの原因となりますので、必ず園を通して話をするように徹底した方が無難です。
ただ相手の保護者にトラブルの概要を伝えたときに、直接謝りたいと言われることも。そのような場合には直接話をする機会を設けることもあります。自分で判断せずに、必ず園長や主任に指示を仰ぐようにしましょう。
保護者が納得してくれないときにも全て自分で解決しようとせずに、園長や主任に相談することも大切です。また、相談したことでその場は解決できたように見えても、保護者の気持ちがおさまっていないことも…。再度のクレーム発生を防ぐためにも、解決後も必ず経過を園長や主任に報告するようにしましょう。
保育士の対応へのクレーム
子どもや保護者に対する、保育士の対応へのクレームが出ることも少なくありません。
例えば、トラブルの原因としてご紹介した着脱の援助に対するクレーム。その対処方について見ていきましょう。
また、言葉の行き違いによる誤解や保育士間での対応の違いもクレームの原因となります。保護者対応についてのクレーム対処法も合わせてご紹介します。
【対処法】
まずは保護者の話をしっかりと聞きます。その上で、自分の対応で保護者に誤解や不快感を与えてしまったことを謝罪します。
謝罪後、子どもの発達状況や保育の中で行っている「見守り」という援助。その働きかけによって、少しずつ着脱ができるようになってきていることを伝えましょう。「こんなことができるようになっていますよ」「できない、と言うこともありますが、できたときにはうれしそうに教えてくれます」など子どもの様子や成長を伝えることで、保育士の対応の意図を保護者にも感じてもらえますよ。
言葉の行き違いで誤解を与えてしまったときには、まずは素直に謝罪をします。自分ではそんなつもりはなくても、相手に不快感を与えてしまったこと自体を謝る必要があるからです。また、間違った情報を保護者に伝えてしまったときにも、真摯に謝罪。今後そのようなことがないように気を付ける旨を伝えます。
そしてその後の対応の中で、その保護者には特に言葉の使い方や伝え方に注意しましょう。クレームを受けると話しづらいという思いも芽生えますが、気持ちを切り替えてより一層密なコミュニケーションを図るように意識すると良いですね。
園の設備についてのクレーム
園の設備は保育士が関与できない部分もありますが、クレームが起きたときには真摯に対処する必要があります。特に、設備によって子どもにけがが起きたり不都合があった場合には、すぐに対処するようにしましょう。
例えば、0歳児の保育室に設置してある棚でつかまり立ちをしていて、手を滑らせ頭をぶつけるというけがが起きてしまった場合。成長の過程だからと納得してくれる保護者もいますが、園の設備のせいでけがをしたとクレームにつながることもあります。対処法を見ていきましょう。
【対処法】
まずは、園の設備によってけがが起きてしまったことを謝罪します。そして、園全体でけがが起こらないようにするための対応を話し合います。
- 棚の角にクッション材を貼る
- つかまり立ちをするときには必ず保育士が傍に付く
- 棚以外に安全につかまり立ちができる遊具を設置する
このようにさまざまな案が出ると思います。その中ですぐに実現可能なことを実践し、保護者にその旨を伝えます。そして、続けてけがが起こらないように注意して見守りましょう。
大切なのは、クレームを受けて園全体で話し合いをしたということ。そして改善する努力をしたことが保護者に伝わるような対応です。
自分の言葉を保育士がしっかりと受け止め動いてくれたという事実に保護者は安心します。
園の方針に対するクレーム
保育園が不足している中で、第1希望の保育園に入れず今の保育園に入園した、という場合に園の方針に対してのクレームが多くなります。
例えば、昼食後の歯磨き。取り入れている園もあれば、特に0,1,2歳児では子どもが歯ブラシを持ち歩きけがにつながる危険性から取り入れていない園もあります。
他の園では歯磨きをしてくれている。歯磨きをしないことで虫歯になったらどうするんですか?というクレームが出ることも。歯磨きを例として対処法をご紹介します。
【対処法】
まずは、歯磨きを取り入れていない理由を丁寧に伝えます。
- けがが起こらないように常に気を付けているが、どうしても防げない瞬間もあること
- 全国の保育園で歯ブラシによるけがが起きていること。その上で、歯磨きに変わる対応を取り入れている旨を伝えます。
- 食後に必ず麦茶を飲む習慣をつけている
- うがいができるようになった子どもは、食後に口をすすぐようにしている
このように、虫歯予防を全く行っていないわけではないことも伝えましょう。それでも納得してもらえないときには、園長や主任を交えて話し合う必要があります。この場合も、解決後の経過を報告することを忘れずに!
園の方針に対してクレームを受けたからと言って、その子1人だけを特別扱いすることは避けましょう。保護者同士のトラブルになる可能性もありますし、他の保護者からの要望もあがり収拾がつかない状況になります。
保護者とトラブルにならないために普段から気を付けること
保護者とのトラブルを回避するためには、普段からの対応が大切です。どんな対応が必要なのかを見ていきましょう。
保護者に言ってはいけないNGワードを知る
保護者は保育士の言葉に敏感です。NGワードを知り、普段から意識して話をすることはトラブル回避につながります。
- 「〇〇ちゃんもできるようになると良いですね」子どもの成長を他の子どもと比べる
- (子育ての相談をされたときに)「お母さん、がんばってください」
頑張ってもうまくいかないから相談しているのにという思いが芽生える - (お迎えが遅い子どもに)「もう少し早く来てもらえると〇〇ちゃんも喜びますよ」
- 「もっとこうした方が良いんじゃないですか?」上から目線のアドバイス
- 「〇〇してあげると喜んでいました」と子どもに対して「してあげた」という伝え方
同じ内容でも「〇〇すると喜んでくれました」の方が印章が良い
保育士としては何気なく使っている言葉でも、保護者の気持ちはなんだかモヤモヤ。ポイントは保護者の立場に立って話をすることです。
送り迎え時の対応
子どもを送ってくる登園時は、とにかく保護者は忙しいです。体調面などの必要なことを伝えて子どもを預ける、その時間を確保するだけで精一杯。そのため、園の様子を伝えるのは控えましょう。
しかし、前日にけがやトラブルが起きてしまったときには、必ず翌日の登園時にも謝罪をする必要があります。保育士が気にかけてくれているということが、保護者の安心につながるからです。
降園時は保護者とコミュニケーションを図る絶好のチャンスです。保護者が何を知りたいかを考え、短い時間の中でも子どもの様子を具体的に伝えられるようにしましょう。
1日の子どもの様子を伝えるときに「今日はお散歩に行き、元気に過ごしました」では少し不十分。クラスのどの子どもにも当てはまることだからです。「今日はこんな会話をしたんですよ」「お散歩中にきれいなお花を見つけて教えてくれました」など、その子ならではのエピソードを保護者は知りたがっています。そこから、「家でもこんなことを話していたんです」と家庭の様子を伝えてくれることも。そんなやり取りが、コミュニケーションの第一歩です。
具体的なエピソードを伝えるためには、保育の中で子どもの様子をよく見ながら関わるようにしましょう。
連絡帳の書き方を工夫する
連絡帳は、家庭との連携を図り園での子どもの様子を伝える重要なツールです。
連絡帳を書くときには、必ず家庭からのコメント欄への返答から始めましょう。自分のコメントに対する答えがあるとうれしいものです。
その後、園での様子を伝えます。分章の書き方によっては細かいニュアンスが伝わりづらく、意図とは違う受け取られ方をされトラブルの原因となることも。そのため、子どもの気になることや子ども同士のトラブルについてなどは、連絡帳には書かずに口頭で伝えた方が無難です。
連絡帳には子どもが楽しく過ごしている様子や微笑ましいエピソードなど、仕事を終えた保護者が楽しく読める内容が書けると良いですね。
また持ち物や時間の確認は、文章に残した方が後のトラブル回避になります。連絡帳の記入と口頭で伝える事項は使い分けるようにしましょう。
子どもの良いところをたくさん見つける
我が子を褒められて嫌がる保護者はいません。保護者コミュニケーションの第一歩は子どもの良いところを伝えることから。
気になる部分を伝えるときにはそれ以上に良いところも伝えるようにすると、保護者との関係に角が立たずに、良好な関係を築くことができますよ。
保育中に子どもの良いところをたくさん見つけてみてくださいね。
保護者との密なコミュニケシーションがトラブル回避の一番の方法
保育士の悩みの1つである、保護者からのクレームやトラブル。それを回避するためには、普段から子どもの様子をしっかりと伝え、コミュニケーションを図ることが1番です。良好な関係を築くことができていれば、多少の失敗や誤解があっても大きなトラブルにつながりにくいですよ。
もしトラブルが起きてしまったときには、真摯な謝罪と説明が大切です。自分では解決できないときには、迷わず園長や主任を頼りましょう。
トラブルに発展してしまっても、その後の対応で十分に保護者の信頼を取り戻すことは可能です。より一層密なコミュニケーションを心掛けてくださいね。