まなびのひきだし
2015.09.02
12.言葉による伝え合い
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このコーナーでは、むっちゃん先生(無藤隆教授)が、保育・幼児教育の大事なポイントを分かりやすく解説します。一人でじっくり読むのもよし!研修の素材として、園やクラスのみんなと読むのもよし!様々な形でご活用ください。毎月1回(第1水曜日を予定)お届けします。読まなきゃ、損。差がつきますよ!
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■「言葉」の領域で大事なこととして、子どもが言葉により人とやりとりできるようになることが挙げられます。その点について、幼稚園教育要領では、領域「言葉」の「内容の取り扱い」において、次にように触れています。
「幼児が自分の思いを言葉で伝えるとともに、教師や他の幼児などの話を興味をもって注意して聞くことを通して次第に話を理解するようになっていき、言葉による伝え合いができるようにすること。」
ここにあるように、言葉により伝える力は大きく三つの段階を経て伸びていきます。
■まずは、自分の感じることや思ったことを言葉で相手に伝えようとすることです。まだ十分に巧みに表せなくても、身振りや表情や声の強さやいろいろなものと一緒になって、言葉に表し伝えようと小さな子どもも頑張ります。保育者はそのちゃんとは言葉にならない、時には声にもならない「声」を聞き取るように努めるのです。その上で、その子どもに何か表したいことを、短い言葉にして返してやります。また、子どもの発した断片的な言葉を補ってやります。
■次の段階は相手の話を聞くことです。絵本を読んでやることなどが最適でしょう。また、保育者のみならず、子ども同士が語り合う中で、相手の話に興味を持って聞くという体験が大切になります。
■第三の段階は相互に伝え合うようになるところです。幼児ではまだ十分というわけにはいかないでしょうが、相手の話を聞き、またそれについて自分の考えや思ったことを述べ、また自分が言うことに対して相手が何か感想や意見を言ってくれる。それを繰り返しつつ、次第に対話が生まれてきます。そこを子どもだけで進めるのはなかなか難しく、保育者が間に立って、話しを仲介してやることが必要になります。
そういった言葉による伝え合いを育てる場面として、子どもによる発表を取り上げてみましょう。午前中に子どもが一所懸命にやった活動や見つけたことなどについて、発表を給食前や昼寝後などのクラスの集まりの時間にすることが増えてきました。とはいえ、言葉だけで伝えるのはまだ難しいので、そこに工夫が必要です。
小さい子どもだと、皆でやっていたことを言ってもらうと、聞いている側にもよく分かり、共感を持たれます。あるいは誰もがどこかでやっているような活動を話してもらいます。「鬼ごっこ、楽しかった」とか、「砂場で穴を掘りました」とかです。
■保育者が子どものやった面白いことを見つけていて、一緒に発表することもあります。「お花を取って、潰したら、色水ができたんですって。ね?」と聞くと、子どもがうなづいて、「いろみずができたの」と言ったりします。小さい声で子どもがささやいたのを皆に伝えることもあるでしょう。
実物を持って来て、皆の前で見せることもあります。「ほら、ドングリ」と、ドングリをいくつも手に持って見せながら、話します。工夫を示すことも出てくるでしょう。菓子の箱を使って、蓋が開くようにしたのを見せて、「ふたが開くんだよ」と伝えます。踊りができるようになって、それを踊って見せます。劇作りでその様子を再現します。
■どれも言葉だけで伝えるというより、実物や動作と一緒にやってみることから始まります。保育者も手伝って、一緒に発表して、でも、子どものがんばりとして発表できたので偉いとほめてやります。また、聞いている子どもにもやっていることや見つけたことが分かると、共感が広がり、次第に互いの間のおしゃべりが生まれます。対話が進み始めるのです。