こんにちは、無藤隆です。今月のテーマは、「言葉を育てる保育者」です。言葉を豊かにすることについて学びましょう。

■子どもの言葉を豊かにするのは、とりわけ、保育者の子どもへの言葉です。特に、語彙（ごい）や言い回しを増やし、また言い換えられるようにしていくことが言葉を豊かにします。ただ、「寒いね」だけではなく、「凍るように寒い」とか「底冷えがする」（これは難しいかも知れません）とか「肌寒い」とか、微妙な言い換えができます。「指先が冷たい」とか「首筋がすーすーする」とも言えそうですが、それは寒さをもっと細かくとらえた言い方です。

■それはただ、そういった言葉をやたらに子どもに語っても、子どもの身につきません。その言葉の意味が分かることが大事です。その言葉の意味を別な言葉で説明して分かるのはもっと上の年齢で言葉が豊富に使えるようになってからです。小さい時期はまず、その言葉が指し示す事柄を子どもが感じていたり、考え、また思っていることが先に来ます。そこに言葉がその事柄を述べるために使われると、意味が分かって言葉が子どもの頭に入ります。
「北風がピューピュー吹いて寒いね」とちょうど実際に北風が吹いて、震え上がるようだと、子どもは「なるほどそういうときにこういう言い方ができるのだ」と分かります。風が激しく寒さを増すように吹くときの形容を「ピューピュー」と言うのだとも感じられます。
ちょうどぴたりと子どもの感じることを言い当てて、それに合った言葉を提供するのは難しいのですが、でも、子どもの様子を見ていると気持ちが分かります。また子どもが見つめているものを見れば、興味がどこに行ったかが見当がつきます。
さらにやりとりしていると、自ずと子どもの気持ちや考えと対応した言葉にもなるでしょう。言葉を使うことで、子どもの気持ちがハッキリすることもあります。子どもが庭から部屋の中に入ってきて、青ざめて震えているとしたら、「外は北風で寒いんだね、ストーブに当たったら」と声を掛けます。子どもは、今の状態を「寒い」と言うんだと自覚もすることでしょう。ストーブが温めるものだとも分かりますし、「ストーブ」という言葉も覚えることでしょう。

■だから、保育者の言葉掛けというより、保育者と子どもの対話と呼んだ方がいいかもしれません。そのやりとりがあって、こういう場合にはこういう言い方ができるのだと子どもが分かっていく過程が言葉の獲得に至ることなのです。
色名でいえば、赤と黄色とあって、「オレンジ色」という言い方もできます。「みかん色とも言うね」と言葉を交わすこともあるかも知れません。微妙な色合いの名前を覚えるだけでなく、同じ色の違う言い方も覚えます。
保育者が語る言葉は子どもの語る言葉より少し難しい言い回しがあることで、それが子どもの語彙を広げます。ただ、それは意味が分かって、始めて習得できるのです。保育者は子どもの発話する言葉を拡張することが大事です。子どもが言い出すことは子どもの興味があり、言いたいことを表していることでしょう。それを少し複雑にすることで、子どもは微妙な言い回しに出会うことができ、またその意味を了解して、獲得していきます。
子どもの興味を持ったことや子どもが言い出したことを無視したら、それにはいきません。「すごい」と感心するだけでも言葉が不足します。ただ子どもと同じ言葉を繰り返すだけでももったいないことでしょう。子どもと対話し、子どもの言葉を広げる保育者の関わりがあることで、子どもの言葉は日々伸びていくのです。

いかがでしたか？次回のテーマは、「環境」を予定しています。それではまた来月。